Bさんの物静かで丁重なパーソナリティと、環境問題についての関心の真筆さがいまに懐かしまれてならないのです。
そしていまでは、世界的な超有名人になり、各国の政府や政治家からひっぱりだこのB氏の、少しも偉ぶらない人柄と、地球環境の劣化に寄せる関心の深さをしっかり受け止めました。
事実、飽食でムダの中に埋もれている日本食材の4割以上が生ゴミにされるという罰とくに彼が各種の環境問題の中でも、食料の生産と配分の問題に一番の関心を寄せていることに感銘します。
先日来日のときも小生の、あなたが懸念している地球環境破壊の中で一番深刻かつ重要と思われるのは何ですか、という問いに対し、直ちに、打てば響くようなスピードで「食料と農業」という返事が戻ってきたものでした。
日本もアメリカも明らかに飽食の時代を迎えていますが、それでも貧しくて十分な栄養をとることのできない個人や集団がいること、とくに世界一の超大国のアメリカにすら十分な食料をとることができない地域や人種民族集団がいることを、Bさんは忘れてはいないのです。
あたりまえなことをやっていますが、やがては食料危機に襲われるかも知れません。
これはかねてからのBさんの警告ですが、この3月上旬に来日したT・L(国際トウモロコシ小麦改良センター)所長も「地球上で人口が毎分200人増える一方では、耕作地が年間200万ヘクタール減っている」として、いずれ日本も、食料が不足しつつある世界の状況と無縁ではなくなるだろうとの観測を述べ、分配に問題があるにもせよ、やはり増産が第一だと力説していました。
このセンター、メキシコに本部をおく非営利の国際農業研究機関で、とくにトウモロコシと小麦の品種改良や生産性の向上に従っています。
多収穫の奇跡の小麦の開発が行われたメキシコに本部がおかれているところがミソです。
このミラクル・ウィートの開発者、B博士がその業蹟でノーベル平和賞を受けたことはよく知られています。
とにかくアメリカや日本も安閑としてはいられません。
ましてやいわゆる発展途上国などには今日すでに慢性的な飢餓や貧困があることを思うと、「食料と農業」というもっとも深刻な、人間実存次元での難問が控えていることに、お互い、無関心でいることは許されません。
増え続けていく世界人口、その結果、急速に減少しつづける農地や地下水、こういった側面をブラウンさんは指摘しつづけてきました。
I書店が出している月刊誌が、「増大する穀物ギャップ」と題したブラウンさんの論文を掲げたのは、早くも1999年1月のことでした。
実は小生がBさんのところの機関誌で見つけ、編集部の注意を喚起し、日本語に訳出して掲載してもらったのでした。
この論文は「この夏、北アメリカを襲った干ばつは、1930年代の『ダストボール』にもたとえられている」から始まります。
ダストボールとは、1930年代に米国の中西部を襲った大型の土砂あらしのことで、それが原因で中西部から南部にかけての貧しい農民がカリフォルニア方面への避難を余儀なくされたのです。
小生は彼にとって一番古い日本人の知り合いだと思います。
もっとも近しい友人といったらうぬぼれかも知れません。
何せ日本との縁がすっかり深くなり、場合によっては年に二度も三度も日本にやってくる彼のことです。
文名が一気に揚がっていろいろな国際会議に出席することを求められたり、講演者や助言者としてひっぱりだされることが、年来すっかり増えたからです。
テーマも一番の専門の農業や食料問題をはじめ、そこに関連する諸問題、たとえば人口爆発や大気や水の汚染、大都市の雑踏や車による環境劣化、地球温暖化の危険、そしてとくに昨今では、ゴミ問題やホルモン撹乱問題いわゆる環境ホルモンなど、人間存在自体を脅かす火急を要するテーマについて果敢に発言するようになっているのです。
オゾン層に穴があいたこととその危険についてさいしょに教えてくれたのは彼でした。
もう10年の余もむかしのことです。
ヒトとヒト以外の有情無情、つまりは狭義広義の環境問題や公害問題への彼の生々しい関心とそれへの処方菱の多岐さにすでに気づいておられるにちがいありません。
アームチェアそれも単に書斎派の、いわゆる安楽イスのエコロジストに満足することなく、書を捨て街(というか現場)に出ていくことをいとわない、実践派の環境論者、というのがB氏の最大の特徴なのです。
内外の高名なエコロジストの中には、書斎のみにとどまり、公害の現場に脚をはこぶことには小心かつ臆病な専門家もいなくはありませんが、わが友B氏はそうではないのです。
それだけに、沢山の彼の著作やプロフィールがすでに日本にも広く紹介されており、出版関係者やいろいろな公的機関、企業体や研究所の間で、彼に近い組織や個人は少なくありません。
でも古さからいったら、憧かりながら小生がすくなくともここ日本では、一、二を争う知友であることは、ご本人も認めてくれており、率直にいって光栄しごくです。
同じことを口にしてくれているいま一人の友人は、A・T氏です。
彼が『未来の衝撃』『第三の波』など、世界的な超大ベストセラーを幾冊も物した社会評論家であることは皆さんも恐らくご存じでしょうが、これまたもう30年近くの知り合いです。
そしてT氏とB氏がこれまた年来の知友であることも付け加えておきましょう。
3人とも世代がほぼ同じ、ということも人種や国のちがいを越えて、われわれ3人の知友関係に資してくれているのでしょうか。
人間、年令を加えるごとに、世代を均しくすることの因縁の深さを思うものです。
母語も国籍も人種も、それまでの閲歴もまるっきり違うのに、どうしたはずみか、人生の軌跡をまじあわせ、ながいこと友達付き合いができるなんて、人生の至福であり、ご縁が深かったのだなあと、しみじみ思わされては、地球というこのホシのためにも、この人間関係をいやが上にも大切にせねば、と心に決しているのです。
ヒトとヒト以外の一切の存在の将来に思いをはせるB氏は、戦争と平和についての思い入れの深さもまた格別です。
それも考えてみれば当然です。
ヒトとすべての存在にとって、戦争や過大な戦争準備ぐらい大きな環境破壊と資源の浪費はありえず、とくに今日のように核兵器とか化学兵器というような、地球そのものを破壊しかねない大量殺戮兵器がまかり通っている時代においては、なおさらのことです。
過日の湾岸戦争や沖縄がらみでも問題になった劣化ウラン爆弾といった悪魔的な存在についても、B氏は鋭い批判と告発をいといません。
同氏は早くも89年の2月20日の新聞のインタビューで「環境安全保障」という新しい概念を展開しています。
安全保障というとすぐに軍事しか思い出さない従来の古ぼけた考え方から足抜けして、環境保全こそが地球というこのか細い星と、そのすべての存在にとっての最大の安全保障だと頭を切り替え、年間実に1兆ドルを上まわるといわれる全世界の軍事支出の中からその幾分かを「環境安保費」に回す、という壮大な発想です。
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